1985年特許庁は日本の十大発明家を選定しましたが、当然のことながらうま味を発見した池田菊苗も選定されています(図1)。図に示すように、十大発明家には明治時代の研究者が何人も選定されています。生命科学の分野では、池田の他に高峰譲吉と鈴木梅太郎の名前があります。高峰はアドレナリンを世界で最初に結晶化し、鈴木はビタミンB1を初めて発見しました。アドレナリンはホルモンであり、ビタミンB1は無論ビタミンです。当時ホルモンやビタミンの概念はなかったのですが、その後多種類のホルモンやビタミンが続々と発見され、ホルモン学とビタミン学が生命科学において大きな学問分野になりました。高峰と鈴木は、ホルモン学とビタミン学の創始者です。両者の業績は当然ノーベル賞に値しますが、何故か受賞されませんでした。それでも高峰と鈴木の業績は、当時から広く世界に知られていました。
池田の業績も、現在から考えれば高峰や鈴木の業績に匹敵する大きなものですが、池田の名前は長い間欧米では知られていませんでした。これは1990年代までは、うま味そのものが欧米の科学者に認知されていなかったためです。現在ではうま味が第5番目の基本味であることが国際的に広く認められており、池田の業績は世界的に高く評価されています。
この小論では、うま味が基本味として認められるに至った経過とうま味物質の安全性を詳しく紹介します。