うま味が多く含まれる食品
味噌

味噌とは?

「味噌」は、大豆や麹、塩などからつくられる
日本の古来からの発酵調味料の1つです。

中国から日本に伝来したとされる「味噌(みそ)」ですが、元々、一部のかぎられた人々しか食べることができない贅沢品・貴重な食品で、味噌󠄀(みそ)汁としてはまだ食べられることは少なく、おかずや薬として食されていました。鎌倉時代ごろに「一汁一菜」という武士の食事習慣が確立し、みそ汁という形で食する方法が一般化してからは、日本人の食生活には欠かせない必需品となっています。室町時代には庶民の間での自家醸造も始まり、江戸時代に入ると工業的に生産されるようになりました。このように日本人に深く根付いたみそは現代の日本人にとっても同様で、みそは和食にかかせない調味料のひとつとなっています。

みそとだしを組み合わせた使い方が一般的ですが、必須アミノ酸を豊富に含んでいるみそは栄養満点な上、食品を保存する効果やお肉やお魚を柔らかくしてくれる効果もあり、現代では万能調味料として和食以外の料理に使用されるなど、さまざまな新しい利用方法がつくられています。

大豆たんぱく質の
アミノ酸組成

みその原料である大豆はたんぱく質が豊富に含まれています。たんぱく質は20種類のアミノ酸でできています。大豆のたんぱく質はどんなアミノ酸がどれぐらい含まれているのかを示したのが下の図です。たんぱく質には味がありませんが、味噌ができるまでの発酵過程で、たんぱく質は各種アミノ酸に分解されていきます。下の図でわかるように、大豆たんぱく質にはグルタミン酸が最も多く含まれています。グルタミン酸に次いで多いアミノ酸がアスパラギン酸ですが、実は、このアミノ酸もうま味のあるアミノ酸です。アスパラギン酸のうま味はグルタミン酸に比べると約1/10程度と、とても弱いうま味ですが、グルタミン酸とアスパラギン酸の割合は、食べ物の美味しさに関与していることが報告されています。大豆の発酵過程で大豆に含まれているたんぱく質の約30%がアミノ酸に分解されます。こうして、うま味成分であるグルタミン酸を中心とする各種アミノ酸を含むみそができあがります。

麹。大豆を発酵させ
るみそ作りに
欠かせない働き者

みその主原料のひとつ「麹」。麹は、日本の食文化を語る上で無くてはならないものです。食は健康と密接に関係していますので、長寿の国日本を支えてきた重要な存在といっても過言ではありません。湿度が高い日本の気候は麹菌が繁殖するのに適しているといわれ、みそをはじめ、醤油、日本酒、甘酒、みりん、酢などの伝統的な発酵食品が麹から生まれています。長年に渡る日本の食文化への貢献と、今後、さらに広い分野で活用されることが期待され、2006年10月、麹菌=コウジカビ(学名:Aspergillus oryzae アスペルギルス・オリゼー)は日本醸造学会によって〝国菌〟に認定されました。

麴菌は米麹や豆麹を作るために使われている糸状菌の総称でカビの一種です。様々なタイプの麹菌が味噌、醤油、日本酒、焼酎を作るために使用されています。たんぱく質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、でんぷんを糖に分解するアミラーゼ、脂質を分解するリパーゼなど、多くの酵素が発酵工程でうま味物質や甘味物質や香り物質の生成に関わっています。

今から約600年ほど前の室町時代に、麹菌に炭を混ぜることで、種類の違う麹菌を別々に生育させる技術が日本で生まれました。このことによって、麹を作る商売が成立し、みそ、醤油、日本酒等を作る人たちは、特定の麹菌を入手することで、品質が安定した発酵食品づくりが可能になったのです。
各種の麹を作って売る店は「もやし屋」と呼ばれています。世界でも類を見ない、そして世界初のバイオビジネスとも言われています。
麴菌はでんぷんを分解するアミラーゼやタンパク質を分解するプロテアーゼという酵素の働きで、でんぷんは糖に、タンパク質はアミノ酸に分解されていきます。そして、麹菌のプロテアーゼの働きによって大豆のたんぱく質は各種アミノ酸に分解され、うま味成分であるグルタミン酸が発酵期間中に増えていきます。

  • 米に麹菌が生えた状態の米麹
  • そもそも麹とは、どういったものなのかご存知でしょうか?麹は、米、麦、大豆などの穀物にコウジカビ(麹菌)を繁殖させることで作られます。このとき、コウジカビの素・種菌を混ぜ込む穀物が、蒸した米であれば米麹、麦なら麦麹、大豆なら豆麹になるのです。そして熱を加えて柔らかくなった大豆にどの麹を加えるかによって、完成するみそは米みそ、麦みそ、豆みそに分類されます。麹を作る際の穀物の違いで、できあがる麹、その麹を原材料として作るみその種類が決まるというわけです。みそは、塩と麹のバランスで甘さが変わります。一般的に塩が少なく大豆に対する麹の割合、麹歩合が高くなるほど甘めのみそに。逆に塩を多く使い麹歩合が少ないと辛口のみそに仕上がります。一般的なみそに多く使われているのは米麹。麹菌がしっかりと繁殖していれば、米粒の中まで白っぽく変質しているので手に取って確認してみるといいでしょう。

どの麹を使用するかによって、出来上がったみその味が変わります。
その特徴は下記のようになります。

  • 米麹

    塩味と酸味

  • 麦麹

    さっぱりとした甘味

  • 豆麹

    コクと深みのある味

下図は発酵期間中の各種アミノ酸の増加の様子を示しています。グルタミン酸とアスパラギン酸はうま味のあるアミノ酸です。発酵の始めの段階(約20日~35日)で、うま味のあるアミノ酸が増加していく様子がわかります。一方、アミノ酸の一種であるヒスチジンは熟成10日以降は、殆ど変化していません。

みその分類

明確な基準がないため、
誤解も多いみそ

みそと同じ発酵食品である醤油をはじめ、食品には「日本農林規格11JAS」が設定されることが多いのですが、みそにはそれがありません。みそは、種類が多く規格を設けるために必須のグループ分けが困難だということ、加熱していないものは酵母や乳酸菌が生きたまま存在していて出荷後も栄養成分を消費すること、規格の基準となる化学的な分析値を維持することが難しいことなどが理由です。そのため、みそはJAS規格がなく、明確な基準がない食品なのです。全国各地に点在するみそは正確な商品数が把握されておらず、分類についても認知のされ方は曖昧です。ここでは、使用する麹の種類による分け方。主に「米みそ」「麦みそ」「豆みそ」に分けられます。この分け方は、みその分類のもっとも基本になリます。

麹によるみその分類

みその味は甘味、塩味、うま味、酸味、苦味、渋味などが複雑に絡み合ってできていますが、一般的なみそ商品や、みその鑑評会では、主に「甘みそ」「甘口みそ」「辛口みそ」の3種に分類されています。塩の量が多くなれば辛口になり、麹の量が多くなれば甘口になります。

塩味の強さによって
3つに分かれる

また、原料となる大豆の品種、大豆を煮るか蒸すかの加熱方法の違い、麹の量、発酵・熟成過程での管理温度、途中で混ぜるかどうかなど、いろいろな条件によって色味は異なり、白色、淡色、赤色に分類できます。色の違いの1番の理由は熟成期間の違いにあります。みそは寝かせる時間が長いほど、メイラード反応で色が濃くなります。

見た目でわかる色の分類

日本全国ご当地みそ

  • みそは、1300年以上にわたり日本人の食生活の中で育まれてきました。日本全国それぞれの地域で、原料事情、気候風土、食習慣や嗜好に合わせた、さまざまな特色を持ったみそが作られています。今でもみその種類は地方名から、信州みそ、越後みそ、江戸甘みそ、仙台みそ、西京みそ、津軽みそなどと呼ばれており、“故郷の味”として親しまれています。

  • 北海道みそ

    サッパリとした味わいで食材の風味を活かしてくれるみそ。
    昔から新潟や佐渡との結びつきが強かったことから、越後みそや佐渡みそと似ています。北海道でよくとれる鮭と合わせたみそ料理が多く存在します。

  • 津軽みそ

    ”津軽3年みそ"と言われ、麹歩合が低く、塩分高めの長期熟成の赤色辛口みそ。かつて津軽は凶作が頻発することから、飢餓への備えのために長期保存できるみそ作りが盛んになったと云われています。

  • 仙台みそ

    戦国時代、伊達政宗はみそを兵糧として製造したと云われています。政宗は軍用だけでなく、産業発展のために良質なみそ作りを続けました。当時から伝わる伝統的な長期熟成型のみそが仙台みそです。

  • 会津みそ

    会津盆地の寒暖差の大きな厳しい気候のなかで造られる長期熟成型の赤色辛口みそ。300年以上の歴史があります。

  • 信州みそ

    生産量が日本一。全国で生産・消費されるみその約40%を占めています。武田信玄の時代、大豆の栽培が盛んにおこなわれ、信州の気候と水質もみそ造りに適していたことから、みそは全域に広まったそうです。

  • 江戸甘みそ

    米麹をたっぷり使用し、10日ほどの短期で造られる赤色甘口のみそ。江戸の郷土料理であるどじょう鍋などにも使われいます。米麹の割合が高いため濃厚な甘みと光沢があります。

  • 東海豆みそ

    名古屋みそ、三河みそ、三州みそ、八丁みそなどの呼称や銘柄で呼ばれ、中京地方を中心に製造されている豆みそ。多種多様な豆みそを使用した料理が広がっています。わずかな酸味と苦味、濃厚なうま味が特徴です。

  • 西京みそ

    京都で作られ、米麹の割合がとても高く、強い甘みが特徴です。茶道の進展に伴って発展した懐石料理や普茶料理では必要不可欠なみそ。関西のお正月には、 白みそのお雑煮が食べられています。

  • 越後みそ、佐渡みそ

    越後みそには2種あり、麹歩合が低めの赤色辛口みそ、”浮麹みそ”と呼ばれる赤色辛口みそがあります。佐渡みそは、麹が多く使われていて、長期間熟成させるため塩なれしたコク深いうまみを感じられるみそです。スケトウダラを肝ごと佐渡みそと煮込む漁師料理が伝わっています。

  • 加賀みそ

    石川県には加賀前田藩の軍糧・貯蔵用として長期熟成の赤色辛口みその歴史があります。能登半島や富山県には水分量の多い赤みそ、福井県は京都の影響を受けた甘めの赤みそがあります。北陸は東北、関西との交流が盛んだったため、各地域の影響を受けています。

  • 讃岐みそ

    四国は麦みそ文化圏ですが、瀬戸内に面する海沿岸地域では米みその白色甘みそも造られていいます。濃厚な甘みがある豊かな風味は、京都の白みそや広島の府中みそと並ぶ人気の白甘みそ。白みその雑煮にあん餅を入れる雑煮があります。

  • 御膳みそ

    阿波藩主・蜂須賀公の御膳に供されたことが名前の由来と云われています。徳島県の赤色甘口みそといわれていますが、麹の割合が高く、豊かなうま味を感じます。塩分は辛口みそと変わりませんが、全国的にみると中辛に位置する味わいです。

  • 瀬戸内麦みそ

    米みそ圏と麦みそ圏が交差する地域で好まれる麦みそ。とくに愛媛で作られる麦みそは、麹の割合が高いため、麦独特の芳香と軽やかな甘みがあります。県という単位ではなく、小さな地域ごとに米みそ白色・淡色、麦みそなど多様なみそが造られています。

  • 府中みそ

    皮を取り除いた大豆を原料とした白や、クリーム色の甘みそ。きめ細やかで豊かな風味とコクで好まれ、関西白みそにつぐ、白色甘みその代表格です。江戸時代からその美味しさが全国で知られるようになりました。

  • 九州麦みそ

    麦みそが主流の九州で主に造られているみそ。温暖な気候のため、熟成期間は比較的短め。熊本県は肥後みそ、鹿児島県は薩摩みそなど今でも藩の名称で呼ばれているみそが多くあります。

  • ソテツみそ

    沖縄の粟国島や奄美大島で造られているみそ。ソテツの実を粉砕し玄米や麦などと合わせて麹を造り、大豆・塩・さつまいもと混ぜます。アンダミスー(脂みそ)はみそとラードを混ぜた沖縄の伝統的な保存食です。

みそのうま味成分
グルタミン酸

各種みそに含まれている遊離アミノ酸の分析結果を図に示しました。どのみそにおいても最も多く含まれているのがグルタミン酸です。発酵期間が短い白みそは全アミノ酸の量は少なく、発酵期間が長くなるほどアミノ酸が増えていきます。同じ大豆が原料であっても使用した麹の種類や発酵期間の違いによって、含まれているアミノ酸の割合は異なります。

うま味データベース

米みそができるまで

みその原料は大豆・米・塩です。蒸し上げた米に麹菌をつけて米麹を作り、蒸した大豆を潰したものとその米麹と塩を合わせて、発酵・熟成させます。みそに使われる麹は、米麹、麦麹、豆麹(大豆麹)の3種類。この中のどれを使うかによって、完成するみそも、米みそ、麦みそ、豆みそに分かれていくわけです。ここでは、一番多くつくられている米みそを例にみその作り方を解説していきます。

一般的な米みその造り方

みその原料

原料はみそのベースとなる大豆、米麹となる米、塩の3つ。(米みその場合)

  • 蒸したり煮たりして冷ます

    乾燥させた大豆をよく洗い、 一晩以上水に浸漬させます。水で戻した大豆を蒸したり、煮たりして柔らかくし、よく冷します。

  • 蒸して種麹を付ける

    洗米して浸漬した米を蒸し上げ、 広げて少し冷まします。その米に種麹をまんべんなく振りかけ、 温度・湿度管理をしながら麹菌を繁殖させます。

3つの原料と水を混ぜ合わせ、容器に仕込む

柔らかくなった大豆を漬し、米麹と塩、水を加えてよく混ぜ合わせて容器に仕込んでいきます。機械を使う蔵もあれば、昔ながらの手動の器具を使う蔵もあります。蔵ごとに大豆、麹、塩の独自の配合があります。

発酵と熟成を経て完成!

麴菌が持っているアミラーゼは米の澱粉を分解してぶどう糖(グルコース)に、プロテアーゼは大豆のタンパク質を分解してペプチド(アミノ酸が2個以上50個未満結合したもので、タンパク質は50個以上のアミノ酸が繋がったもの。)やアミノ酸にしていきます。
この過程を発酵と呼びます。発酵過程でできたブドウ糖は、酵母によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵によって、酸味や香りの成分が作られます。この過程は熟成と呼びます。このように、発酵と熟成の過程を経て、みそ特有の深みのある味が醸し出されます。発酵と熟成の期間はみそによって異なりますが、半年から1年ほど。

日本人の心と健康を
支えてきたみそ汁

日本ではみそを使った料理といえば、何ですか? と聞かれてすぐに思いつくのは、大定番のみそ汁。日本人が慣れ親しんでいるもっとも基本的な食事といえば、「白ごはんにみそ汁」でしょう。和食の原点とも言えるメニューですから、みそを語る上で、みそ汁を外すわけにはいきません。みそ汁なら、米みそ、麦みそ、豆みそ、中でも白みそと赤みそを使い分けるなど、どんな種類でもみそ汁に使えます。具だくさんのみそ汁なら、温野菜がたくさん取れて栄養バランスも良くなります。四季がある日本では、その季節の旬の食材をみそ汁の具として味わうという楽しみ方ができます。

具材によって作り方は少しずつ変わることもありますが、基本は同じです。今回はごく一般的なみそ汁の作り方をご紹介します。

  • 1、だしと具材を準備する

    だしは「基本のだし」で紹介した方法を参照、より手軽に用意する場合は、ボウルに昆布と水を入れ30分程度浸ける。その合間に具材を切る。

  • 2、火が通りやすい具材はひと煮立ちしてから入れる

    根菜類をはじめとする煮えにくい野菜や、そのものからだしが出る肉や魚などは最初から鍋に入れ、葉物やわかめ、煮崩れしやすい豆腐など火が通りやすい具材は、だしがひと煮立ちしてから入れます。

  • 3、具に火が通ったら火を弱め、みそを入れる

    お玉にみそを入れて適量のだしをすくいとり、菜箸や小さな泡だて器などでみその塊がなくなるまで溶きます。みそがだしに溶けて液状になったら、鍋の中に入れます。

  • 4、沸騰する直前の「煮えばな」のタイミングで火を止め、お椀に盛って食卓へ

    「煮えばな」とは、汁物の具材や溶けたみその動きがゆらゆらと揺れる程度の、沸騰する直前の状態をいいます。鍋底からフワッと花が咲いたように見えることから、そう呼ばれるそうです。グラグラ煮るとみその香りが飛んでしまうので注意して、煮えばなが確認できたら火を止め、お椀に盛ります。

だしとみそ汁の
うま味

クリームやバター等の動物性油脂を使うことなく、満足感のある汁物が出来上がっているのがみそ汁の大きな特徴です。比較動物性油脂(クリームやバター等)を使うことなく、満足感のある汁物が出来上がっているのが、味噌汁の大きな特徴です。だしには昆布から抽出されたグルタミン酸とアスパラギン酸が含まれています。どちらもうま味のあるアミノ酸ですから、昆布だしは、とてもシンプルなうま味溶液ということができるでしょう。ここにみそが加わることで、更にみそに含まれていた各種アミノ酸が混ざり合い、アミノ酸リッチな汁物が完成します。
みそ汁とチキンスープを比較すると、みそ汁のほうがうま味成分であるグルタミン酸をはじめ、各種アミノ酸が豊富にふくまれていることがわかります。みそ汁に含まれている全遊離アミノ酸の合計は約340㎎、チキンスープでは212㎎と、味噌汁のほうがアミノ酸が豊富に含まれていることがわかります。さらに、それらの全遊離アミノ酸に占めるグルタミン酸とアスパラギン酸の割合もチキンスープよりも多くなっていることが下の円グラフからわかります。だしとみそによる豊富なアミノ酸が満足感のあるみそ汁の味を作ってくれているのです。

みそ汁とチキンスープに含まれる
遊離アミノ酸量 ©umami information center

だしについて

一汁三菜における
みそ汁

2016年に厚生労働省が健康寿命延伸計画を発表しました。2040年までに健康寿命を3年延ばすことが目標で、国民の生活習慣の改善、中でも食生活の改善に重きが置かれています。年齢を問わず一日3回の食事を摂ること、そのうちの2回は主食、主菜、副菜を組み合わせた食事にすること、減塩を心掛けること等がうたわれています。昔からうけ継がれてきた和食の献立の組み合わせ方法の一汁三菜は栄養バランスの優れた食事の方法として見直されています。
日本人が最も理想的な食事をしていたのは、1975年だと言われています。当時は一汁三菜が献立の基本だったのです。うま味という観点から、特に汁物に注目してみましょう。日常の和食の献立では、汁物としてはみそ汁が中心です。みそ汁はエネルギー密度(エネルギー/重量)が低く、かつ、満足感が得られる一品です。汁物摂取は塩分の摂りすぎにつながるのではと心配する方もいるかもしれませんが、うま味たっぷりのだしを使うことで、塩分が控えめでもおいしくいただくことができます。

さらに、健康面では汁物を摂取する回数が多いほど、肥満になりにくい傾向にあることが報告されています。九州で行われた疫学調査では、汁物(主にみそ汁やスープ類)の汁物摂取頻度とMBIの関係を調べた結果、全く汁物を摂らない人はBMI>27の人が多い傾向にありましたが、毎日三回の食事ごとに必ず汁物を摂っている人は、BMI<23の人が多いことが報告されています。イタリア、ポルトガル、米国でも汁物摂取頻度が高い人ほど、BMIが低い傾向にあることが報告されています。
みそ汁には、だしのうま味成分、そしてみそのうま味成分が含まれていますので、うま味たっぷりのみそ汁を飲むことで満足感も得られます。大豆を豆料理として調理した場合には、タンパク質の消化吸収はあまり良くありません。みその場合は、大豆に含まれていたたんぱく質は、既に麹菌の酵素でアミノ酸に消化されています。みその原料として使われた米のでんぷんも酵素で分解されてブドウ糖になっているので、みそ自体が既に消化された食品ということができます。消化機能が低下しがちなお年寄りや病気の方々にとって、優れた栄養補給食品と言えるでしょう。
普段、あまりみそ汁のだしのことは意識していないかもしれませんが、だしの効いたみそ汁、そして、野菜をたっぷり入れた具沢山の味噌汁を毎日飲むように心がけたいですね。

本ページへの情報提供のご協力

実践料理研究家
岩木みさきさん

みそは1300年も昔から今日まで日本の食文化を支えてきた調味料であるにもかかわらず、種類が多すぎることでJASの規定もないほど、日本人も詳しくは知らない調味料となってしまっています。岩木さんは日本の伝統調味料であるみそに魅せられ、4年間で60か所延べ100以上のみそ蔵を自らの足で訪問。伝統ある蔵と造り手の想いをたくさんの人に届けたい、未来に残したいと、「みそ探訪記 https://misotan.jp/」でみその豊かな情報を発信されています。

岩木みさきさん著「みその教科書」が出版されています。
免疫力アップ、美肌、がん予防。驚きの健康効果が続々と明らかになっている奇跡の発酵調味料・みそ。この一冊で、日本の伝統調味料の「みそ」のすべてがわかります!

みそ漬けと
うま味の関係

日本では刺身や寿司のように魚を生で食べる生食文化がありますが、魚介類をみそに漬け込み保存性を高めるとともに、よりおいしく食べるための伝統的な手法があります。下の図には、ギンダラのみそ漬け期間中のギンダラ肉中のうま味と甘味のあるアミノ酸の増加していく様子と、みそ床のアミノ酸が減少していく様子を示しています。ギンダラの切り身の重量の半量のみそを、切り身の周りに塗り5日間漬け込んでいます。漬け込んでから数日の間に、みそに含まれていたアミノ酸がギンダラに移行しているのがわかります。このように、塩分を含むみそに魚を漬け込むことで魚の腐敗を防ぎ保存が可能になるだけではなく、みそのうま味や甘味成分が魚に浸み込み、生のときとは違った風味を楽しむことができるのです。

写真提供:David Zilber

世界に広がる
みそづくり

近年、多くの外国人シェフたちが日本特有の麹菌に興味を持ち、麹菌を使用した発酵調味料づくりがブームになっています。味噌づくりもその一つです。日本の味噌と同じものを作るのではなく、身近に手に入る食材を原料に麹菌を使って、日本にはない、全く新しいスタイルの味噌がつくられています。デンマークに設立されたノルディックフードラボのメンバーであるシェフと研究者が発酵に関する基礎情報と、多くの発酵調味料や発酵食品のレシピを紹介した‘The Noma Guide to Fermentation’という本が2018年に出版され大変話題になっています。
ここでは、大麦に麹菌を種付けした大麦麹と黄エンドウ豆を28℃で約三カ月発酵させた味噌が紹介されています。
この味噌はピーソ(Peaso)と呼ばれ、各種料理に使われています。
ピーソと同様に発酵期間が短い白みそ中の遊離アミノ酸を見てみると(下図)、ピーソにはうま味成分であるグルタミン酸のほかに、甘いアミノ酸であるアラニンやセリン等が豊富に含まれています。

写真提供:David Zilber

米国のトップシェフの一人、トーマス ケラーはバターとピーソを混ぜたピーソバターを考案。欧米人の嗜好にあっていること、ピーソを混ぜることで、バターの使用量を減らし、カロリーを減らすことができるという点でも注目されています。さらに、ピーソの製造過程でバラの花びらを加えたローズピーソ、ハイビスカスの花びらや、レモンバーベナ(南米産でハーブティー等に使われる香水木)の葉、オレンジや柚子などの柑橘類の花、カカオ等を加えて発酵させるなど、外国人シェフ達のユニークなアイデアが続々と紹介されています。
味噌とはこうでなければいけないという固定観念がないので、自由な発想で様々なピーソが作られ、ドレッシングや料理の味付けに使われています。
麴菌を種付けする穀物は、日本では米、麦、大豆ですが、海外では大麦のほかにライ麦、乾燥トウモロコシ、ヘーゼルナッツやカボチャの種、そして何と、サワーブレッドにまで種付けをするなど、シェフ達のアイデアはどんどん広がっています。いずれも、発酵期間は70-90日程度ですが、風味豊かなバラエティーに富んだ味噌が海外に広がっています。
味噌づくりのテクニックは世界各地に広がりつつあるのです。