シンポジウム「地中海食と日本食~うま味をベースとした2つの健康的な美食文化」
2022.12.11
うま味インフォメーションセンター(UIC)は、第22回国際栄養会議*1(東京国際フォーラム)にて、12月11日(日)に 「地中海食と日本食~うま味をベースとした2つの健康的な美食文化」と題したシンポジウムを、インスティトゥト・セルバンテス*2と共催しました。
ユネスコは、世界中のさまざまな料理の伝統を無形文化遺産として認定しています。このリストに含まれる食文化の中で、地中海食と日本食は風味豊かでうま味豊富であるだけでなく、健康と長寿への寄与が際立っています。日本食の健康価値が新しいデータで裏付けられていく中、地中海食の健康価値も幅広く検証されてきています。
今回の90分間のシンポジウムでは、第一部が講演、第二部が二人のシェフとコーディネーターによるパネルディスカッション という構成で実施されました。
第一部
1. 基調講演: UICコンサルタント二宮くみ子博士 「うま味について」
2. スペイン ナバーラ大学(University of Navarra)アルフレード・マルティネス教授
「地中海食の健康価値について」
3. 東北大学 笹野高嗣名誉教授
「口腔内および全身の健康へのうま味の大切な役割」
講演では、3人の研究者が日本食と地中海食双方の健康機能について最新の知見を発表しました。
二宮博士は、「和食~伝統的な日本の食文化」と題した基調講演を実施。和食の特徴として「うま味を活用した料理である」「動物性脂肪をほとんど使わず、栄養バランスがとれた健康的な料理である」という点を挙げ、うま味とうま味を活かした日本のだしについて、洋食に使われるブイヨンの遊離アミノ酸組成と比較するなど、科学的に解説しました。
続いてマルティネス教授が「地中海食のもたらす健康効果」と題して講演。オリーブオイルや植物由来の食品、魚介類、ヨーグルト等に代表される地中海食の特徴と栄養組成を紹介し、地中海食は主要な慢性疾患のリスク低減につながる他、健康維持や疾病予防にも役立っていることを説明し、地中海食には社会性や満足感、安心・安全性の面で、和食と共通する特質が見られると語りました。
最後に、味覚障害やドライマウスの治療にうま味を利用する研究を行っている東北大学の笹野教授が、「口腔内および全身の健康へのうま味の大切な役割」と題して、うま味による口腔内の改善の実例を紹介しました。笹野教授は、だ液の分泌を促すうま味の特性を活用し、ドライマウスからの食欲不振と体重低下に悩む高齢者の治療にうま味が豊富な「だし」を活用した実例を挙げ、「うま味は消化吸収にも関係しており、口腔と全身の健康を結びつけているのです。」と述べました。
第二部
パネリスト:
スペイン料理「レ・ストゥディ」主宰シェフ ジョセップ・バラオナ・ビニェス氏
麻布十番「山田チカラ」オーナーシェフ 山田チカラ氏
コーディネーター: UIC アナ・サン・ガブリエル博士
パネルディスカッションでは、UICのアナ・サンガブリエル博士がコーディネーターをつとめ、地中海食文化と日本食文化を良く知るトップシェフのお二人に、それぞれのご経験や料理への思いを語ってもらいました。シェフになったきっかけ、今の料理スタイルに至った食の経験、スペインと日本の食材の共通点やその差、そしてうま味が料理にどのような役割を果たしているか等、旧知のお二人による軽快なトークが展開されました。
参加者を対象にしたアンケートからは、地中海食と日本食との融合がどのように発展してくのか興味深いといったコメントもあり、アンケートの回答者全員が「うま味についてもっと知りたい」と答えました。
UICでは、これからも食文化へのうま味の寄与とその可能性について、情報を発信していきます。
*1: 国際栄養学会議は、国際栄養科学連合(International Union of Nutritional Sciences, IUNS)の主催で4年に一度開催される国際会議です。今年度は2022年12月6日から11日までの6日間、千代田区の東京国際フォーラムで実施されました。日本の開催は47年ぶり、2度目です。
*2: スペイン語教育を促進し、スペインおよびスペイン語圏諸国の文化を広めるために1991年にスペインによって設立された機関です。