「モダンチャイニーズ ENGINE」の松下和昌シェフ VOL.1
- ENGINE 松下和昌
2023年12月
植物由来の材料でつくられた料理や食品のことをプラントベースフードと言いますが、これを一層おいしく食べるための、ひとつのポイントが「うま味」です。うま味を上手に活用することで植物由来の材料がとびきりおいしい料理になります。
今回は神楽坂の「モダンチャイニーズ」、ENGINE(以下、エンジン)の松下和昌オーナー・シェフにお話をうかがいました。
松下シェフは赤坂の中華の名店「うずまき」で約7年間料理長をつとめ、2015年2月に同店をオープン。翌年以降、ミシュランガイド東京のビブグルマンを連続で獲得されています。
松下シェフの料理は中華ながら、日本の四季の食材をふんだんに取り入れるモダンなスタイル。そのやさしい味覚は、中華の概念をするりと超え、それでいて、和食とは違う満足感があります。その原点は、やはり松下シェフならではの中華出汁です。「鶏のガラで出汁を取っているんですけど、普通はネギとタマネギとしょうがとにんにくですが、僕は、それにセロリを入れています。食材の様々な味覚をセロリがうまくまとめてくれていると思います(セロリの芳香成分、フタライドがコクも出してくれる)。そして、エンジンのシグネチャーである、春巻きや焼売、かに玉、黒酢酢豚は、その季節で掛け合わせる食材が変わり、行く度にそのセンスと技術にうならされます。
さて、今回のプラントベースフードについてうかがうと「開店してまもなく9年になりますが、2回ほどお客様から依頼がありました。品数を少なくして野菜を中心にしましたが、やはりいつもの出汁が使えないので難しかったですね」と松下シェフ。では、もしも、世の中の大半の人がプラントベースになって出汁を再考しなくてはならない究極の場面になったらどうしますか?という意地悪な質問を投げかけると「その時はドライトマトと香味野菜で出汁を取ります」と即答。赤坂時代に日本料理の名匠・菊乃井の三代目主人、村田吉弘さんがお越しになり「トマトはそれ自体うま味が強いけれど、干したらもっと強くなって出汁に使える」と教えてもらったのだそうです。トマトは生の状態でグルタミン酸が多く、乾燥させると水分が抜けて濃縮されるのですが、加えて、干したキノコに含まれるグアニル酸も少しだけ出てくるので、ドライトマトはうま味の相乗効果でさらにおいしくなるわけです。
実は今年、エンジンは同じ神楽坂に2号店となる「TAKE(タケ)」をオープン。こちらのコンセプトは「中華の居酒屋」で、お酒を楽しみながらエンジン風の料理が楽しめます。なぜならエンジンで6年間、松下シェフの元で腕を磨いた阿部孟シェフの料理だからです。「僕は、いつまでに何をやるというような目標をつくるのではなく、毎日毎日さらにおいしくなることを目指しています。うま味を活かせば料理はさらにおいしくなるので、プラントベースのお客様への対応も、研究の余地はあると思っています」。