「治部煮」は石川県を代表する煮物で、鴨肉やすだれ麩、季節の野菜などを煮て食します。鴨肉には小麦粉がまぶされており、とろみがあるのが特徴です。 発祥は、少なくとも江戸時代から食べられていたとされる武家料理で、キリシタン大名の高山右近が宣教師から教わり加賀藩に伝えたという説や、豊臣秀吉の兵糧奉行として従事した岡部治部右衛門が朝鮮から伝えたという説、漂流したロシア人が伝えたという説など様々です。加賀藩主の別邸、金谷御殿が落成したお披露目の宴に藩士約3000名が招かれた際、その宴では藩公に鴨肉・せり・すだれ麩・くわいの「治部煮」が供されたといいます。 武家料理として始まったとされる一方で、庶民たちは秋冬ごろ、大陸からの渡り鳥をしとめて「治部煮」を作っていたとされます。時が経つにつれて、料亭風の盛り付けや仕立て方で演出され献上料理に供されるようになりました。この時から、薄手で口が広く底が浅い、専用のお椀で供されるようになったといわれています。現代でも家庭でのおもてなしや特別な日の料理として食べられています。また、郷土料理を提供する料亭や割烹などでも提供されています。
肉に粉をまぶして煮ることで肉自体のうま味が逃げず、汁にとろみがつくのでだしのうま味が具材によく絡みます。季節によっては旬の魚介が加わることもあります。薬味としてわさびを天盛りにすることで、さわやかな辛みがやわらかな鴨肉と調和します。
出典:農林水産省Webサイト『うちの郷土料理』をもとに作成
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/jibuni_ishikawa.html